モンゴル旅行記

1,空港にて

 高校生の頃、読んだ司馬遼太郎のエッセイ、「星の草原」に“手を伸ばせば届きそうな星空、向こうの方からやってくる明かりが車のヘッドライトなのか、星の明かりなのか分からない”というフレーズに惹かれて2002年6月、モンゴル国へ行った。行くまでにもさまざまなエピソードがあったのだけれどもここでは割愛。

 初めてモンゴルの空港を出るとギョッとした。テレビで見るような遊牧民のおじさん、おばさん達が空港の到着ゲートの外側でムスッとして並んで誰かを待っているのである。関西空港に比べて近代的とは言えないまでも一応空港、文明の香りのする中で彼らの出迎えを受けたのである。とはいえ、彼らは私達を待っていたのではなく、彼らの家族の誰かを待っていたらしく、次々と嬉しそうな声を立てて帰国する我が子等を迎えて三々五々いなくなっていった。

一方、到着ゲートを心配顔で出てスウーッとまっすぐ抜けていき出迎えてくれるはずの現地旅行者のニンジンさんという方を探した。

 彼女はすぐ振り返ったところに立っており、スーツを着て、男性と二人で出迎えてくれた。よく聞くと、私たちのお世話はこのお兄さんがしてくれるとのこと。「よろしくお願いします」とその方。私たちも“よろしくお願いしますと、言った。彼は「ヨネちゃん」という名前で、同名のスポーツ用品がスポンサーにつくほどのテニスプレーヤーだったそうだ。高校生の頃に日本に留学していたらしく、日本語はペラペラ。そして、大阪弁で話した。そのノリのよさで私たちの旅は始まった。

 空港を出ると、とたんに視界が変わった。山の頂上まで続く大草原、その中には人工の建築物はなく、肩から背中までがどっと力が抜けていく。〈すごいな〜、別世界のようだよ〉と、思いつつ、心のガードを解いて景色に浸っていた。

 車はどんどん進み、ウランバートル市街を抜け、建物が少なくなっていく。すると、ガイドのヨネちゃんが「はい、ここから携帯電話も繋がらなくなります。必要な方は今電話してくださいね。」という。え!?もう??と、思いながらも取り立てて電話をする必要もないので何も言わずにやりすごした。

 オボーのところで休憩兼オボー観光をしながらゆっくりしていると道の向こう側が崖のような傾斜になっているのだけどそこから「ドガッドガッドガッ」と音がしていきなりヌッと馬に乗ったお姉さんが飛び出てきた。こちらはびっくりしていたにもかかわらずお姉さんは何ごともなかったかのように悠然と馬に乗って去っていく。

 また、突然、馬に乗ってたくさんの羊を追いかけているかと思いきや長い棒を取り出し、馬を追いかけておじさんが去っていく。

 こちらは大都会の生活がそろそろ板についてきた頃だっただけに突然、馬や羊が何の前触れもなく飛び出して来られてドギマギしながらモンゴル旅行は始まった。

 

2,ドガナハッドにて

 ドガナハッドに着いてみると、愕然とした。テレビで見るモンゴルの大草原のイメージではなくて、草原はうつくしいのだけれども巨石に囲まれ、いわゆるザ・モンゴルとはほど遠い。なぜ?なぜ?あれだけメールにやりたいことをきちんとリクエストしたはずなのに!

 しばらくして、いやいや、これも何かの意味があるはず。だってここまで来れたのだもの。この旅を計画しているときの変化の連続、だけど私たち4人はここまで来れたのだから何か意味があるはず!それを探すのだ!と、気持ちを切り替えてツアーのスケジュールに従った。

 朝、食事を終えた後、レストランの近くに集まっていよいよ乗馬、とのこと。これこれ。この乗馬がしたくて、モンゴルに来たかったのよね。子供の頃から馬に乗りたくて馬に乗りたくて、星を見たい、という以上に馬に乗るためにモンゴルへ来たのだった。レストランの近くに行くと、いかにもザ・遊牧民!という感じの人が馬の準備をしている。少し怖そうで近寄りがたい。一人一人馬に乗せていく時、茶色のとてもきれいな馬がいた。私はそれに乗りたかったので一番最後に馬に乗ることにした。トイレに行って帰ってくると、やはり、気の荒そうな感じのする馬だったので一番最後まで残っていた。私はその馬に乗った。

 馬の背中は妙に安心感のするものでなんだか自分のお兄さんかお父さんの背中に乗せてもらっている感じだと思った。そういえば小さい頃、よくお父さんがお馬さんごっこと言って良く背中に乗せてもらったっけ。草原へ出るとナキウサギのタラバガンが草原に立ち尽くしていた。さっきまでムスッと恐い顔をしていたお兄さんが「バーゴェ!バーゴェ!」と、自分の犬を大きな声で呼んでいる。旅行者を連れていながらこの大騒動、何事かと思ったら、草原のタラバガンと自分の犬を対決させようとしていた。犬はタラバガンの決死の反撃に遭い、「キャイ〜ン」となさけない声をあげて敗退。お兄さんはさも満足げに「ウッホッホッホ」と笑っていた。

 私はびっくりしてしまった。なんというリラックスした人たちなんだろう。この旅の前年には内モンゴルへ旅行したけれどもそのときにもこんなにもリラックスした人はいなかったぞ。このお客さんを連れている時間は言ってみれば仕事時間なわけでもっと仕事仕事した顔をしているのが普通の日本人社会に生きてきて、この裏表のない、生きてるのが“楽し〜い”と思いながら生きている人たちの世界に浸りたい、と思ってしまった。


プレアデス 光・太郎

モンゴルへ戻る

menuへ戻る